神を信じるかどうかよりも、
「神がそう言ったことにする」ほうが、人は楽になるのかもしれない。そんな思考遊戯。
Aには、神と対話できる能力があった。
――といっても、Aは冷静だった。
こういう話をする人間は、ごまんといる。
冷静に考えれば、単なる気のせいの可能性もある。
だからAは、極力、気にしないようにしていた。
ところが、その“神”は、全知全能を名乗った。
しかも、少し変わっていた。
神は、やたらと弁明してくるのだ。
「いい加減、私のせいにばかりするのは、やめてほしいものだ」
「私は、そんなことは言った覚えがない」
「人を殺せなど、私が言うわけがないだろう」
「信じる者しか救わない? 私はそんなに心が狭いと思われているのか」
「考えが違うだけで拒絶しろ、などと…おかしな話だ」
Aは、たまらず口を挟んだ。
「神よ。あなたは、思っていた以上に人間的ですね」
すると神は、怒ったように言った。
「何を言う。お前たちのような愚か者と一緒にするな!」
Aは、わざと静かに返した。
「神も意外と、傲慢で心が狭いのですね」
その瞬間、神の声の温度が変わった。
なぜか、やけに冷静になったのだ。
「……ここだけの話だが」
神は、小声で続けた。
「お前たちが“私より上だ”などと言ったら、私はお前たちを救えなくなるだろう」
「だからこれからも、私を特別扱いしてもらわんことにはな」
Aは、その理屈に一瞬つまずいた。
救う側が、救われる側に“上”を要求する。
全知全能のはずなのに、扱いに敏感だ。
だがAは、なぜか妙に納得してしまった。
「……さすが神の言うことは、違うな」
そして、その納得が、いちばん不気味だった。
―――――
神が人間を創ったのか。
人間が神を創ったのか。
あるいは、神は最初からいて、人間が気づいて名前を付けただけなのか。
疑問は、解けない。
そして、解けないからこそ、神は永遠なのかもしれない。
答えがないこと自体が、答えとして残り続けるからだ。
もし「いてもいなくても同じ」なら、神は特別ではなくなる。
だから人は、神を特別に扱い続ける。
そうすることで、神は特別な存在でいられる。
たとえ、その特別扱いが、特定の者だけのものだったとしても。