遠回りにも、意味はあるのかもしれない。失敗や気づきを、物語・歌・動画にしています。
価値がある人間とは、何を基準に決まるのだろう。
地球では当然のように通用している物差しも、別の場所から見れば、まるで意味を持たないのかもしれない。
宇宙の基準で「価値ある人間」を選ぼうとしたとき、地球側の常識が少しずつ外れていく小さな思考遊戯。
―――――
Aは、突然の知らせに驚いていた。
自分はこれまで、ごく平凡に暮らしてきた。
特別な才能があるわけでもない。
権力もない。
大金を持っているわけでもない。
歴史に名を残すような功績もない。
それなのに、ある日突然――
自分が「地球で価値がある」とみなされたのだ。
きっかけは、数日前に起きた前代未聞の出来事だった。
惑星Xから、宇宙集団組織の代表を名乗る存在が、
はじめて地球にコンタクトを取ってきたのである。
その知らせだけでも、世界は騒然となった。
ニュース番組は特番に切り替わり、
各国政府は緊急会議を重ね、
専門家たちは「人類史上最大の接触だ」と興奮気味に語った。
地球側は、慎重に代表団を整えた。
通訳班。
科学者。
安全保障担当。
宗教関係者。
国際組織の責任者。
そして、惑星Xの代表へこう問いかけた。
「地球として、どのような人間をお見せすればよろしいでしょうか」
すると、惑星Xの代表は、極めて淡々と答えた。
「この地球で価値がある生物と話す必要がある。
価値あるものを持った人間を選んでください」
地球側は少し戸惑いながらも、
まずはもっとも分かりやすい候補を出すことにした。
最初に選ばれたのは、大統領だった。
国家を動かす権力を持ち、
多くの人間の生死や方向性に影響を与える立場。
地球の代表としても、まず妥当に思えた。
しかし、惑星Xの代表は、その姿を確認すると言った。
「彼は、地球で言う“権力”という力を持っている。
地球の管理者の一人かもしれない。
それは宇宙では、価値があるとはみなされない」
会場は一瞬、静まり返った。
権力が価値ではない。
その一言は、地球側にとって少なからぬ衝撃だった。
そこで次に選ばれたのは、
地球で最も財力を持つ人間だった。
膨大な資産。
世界中に広がる影響力。
どの国の政府よりも大きな資金を動かしうる存在。
地球では、お金はほとんどすべてを通過できる共通言語だ。
これなら、価値ある存在と見なされるのではないかと期待された。
だが、惑星Xの代表は、やはり首を縦には振らなかった。
「彼は、地球でいう資産――
共通の価値観である、お金に相当するものを最も持っているようだ。
それは、権力と同じく、宇宙では価値があるとはみなされない」
地球の代表団の顔には、少しずつ焦りが滲み始めた。
ならば、もっと本質的な能力ではどうか。
次に選ばれたのは三人だった。
地球で最も知能指数が高い人間。
強い自己確信を持ち、誰よりも自信に満ちた人間。
そして、肉体的に極めて優れた人間。
知性。
精神力。
身体能力。
どれも、人類が高く評価してきたものばかりだった。
だが、惑星Xの代表の返答は、短かった。
「どれも、価値あるとはみなされない」
地球側の組織委員会は、さすがに困り果てた。
権力でもない。
富でもない。
知能でもない。
自信でもない。
肉体の優秀さでもない。
それなら、精神性や功績だろうかと考えた。
次に選ばれたのは、宗教の頂点に立つ人物と、
人類に大きな貢献をしたとしてノーベル賞を得た人物だった。
信仰。
慈善。
平和。
知の成果。
これらならば、地球の外に向けても通用する価値かもしれない――
そう期待した者は多かった。
しかし、惑星Xの代表はやはり同じように言った。
「これも同じだ」
そこまで来ると、組織委員会はついに白旗を上げた。
「申し訳ありません。
何せ、宇宙との接触は初めてのことです。
宇宙で価値あるものとは、私たちには想像もつきません。
どういうものを指すのか、教えていただけないでしょうか」
その問いを受けて、惑星Xの代表は少し沈黙したあと、
ほんのわずかに表情を緩めたようだった。
「そんなことも分からないのであれば、
まだ宇宙とコンタクトを取る権限はないのかもしれませんね」
その言葉に、地球側は顔をこわばらせた。
だが代表は、続けて言った。
「まぁ、初めてのことですし、アドバイスをしましょう」
会場の空気が張りつめる。
そして、惑星Xの代表は、ゆっくりと基準を語り始めた。
「宇宙で価値あるものとは、
全ての富や名声を投げうっても構わないと、
お互いに思える生涯のパートナーを持った人間です」
地球側の何人かが、思わず顔を見合わせた。
代表は気にせず続けた。
「それも、数年では意味がありません。
少なくとも、二十年以上の積み重ねが必要です」
会場には、先ほどまでとは別のざわめきが広がった。
「付け加えるなら、
できれば特定の団体に強く所属しておらず、
人間以外の物や生物――
星全体や、他の星のことまでも考えられる優しさを持った、
一般的な生活水準で暮らす人間のことです」
地球側の記録係は、必死にメモを取り始めた。
しかし、惑星Xの代表の条件は、そこで終わらなかった。
「更にいえば、
快便で、毎日きちんとトイレに行き、
睡眠が極端に乱れておらず、
必要以上の見栄で生活を膨らませず、
食べること、眠ること、世話をすること、見送ることに、
適切な感覚を持っている人間です」
その細かな条件が続くにつれ、
組織委員会の表情は、驚きから妙な納得へと変わっていった。
なるほど。
たしかに、宇宙規模で文明を見れば、
一時的な権力や富よりも、
長く誰かと関係を築けることのほうが、
種としての安定や成熟を示しているのかもしれない。
そして最終的に、
その条件にもっとも一致する「価値ある人間」として、
Aが選ばれたのだった。
Aは、その決定を聞いても、すぐには実感が湧かなかった。
自分はただ、
長年連れ添った相手と、
派手でも貧しすぎるわけでもない生活を送り、
人間だけでなく動物や草木にもそれなりに気を配り、
特定の立場に染まりきることなく、
できる範囲で穏やかに生きてきただけだった。
それが、宇宙から見れば「価値がある」らしい。
Aは少し考えた。
地球では、
もっと声の大きいもの、
もっと目立つもの、
もっと数字で示せるものばかりが
価値として並べられやすい。
だが、宇宙はそう見ていなかった。
地球は、価値を測る物差しそのものを、
ずいぶん長いこと勘違いしていたのかもしれない。
もっとも――
A自身はその後も、
昨日までとほとんど変わらない生活を続けた。
宇宙が価値ありと認めたところで、
ゴミは出るし、洗濯物は溜まるし、
腹も減れば、便意も来る。
そのことに、Aは少しだけ安心していた。
―――――
価値とは、自分で決められるものではないのかもしれない。
もちろん、人は自分なりの価値観を持って生きている。
何を大切に思うかは人それぞれだし、
その違いがあるからこそ、世界は単純ではない。
だが同時に、
自分の中で絶対だと思っていた価値が、
別の場所ではまるで通用しないということも、十分ありうる。
地球の中だけでもそうなのだから、
他の星や宇宙から見ればなおさらだろう。
権力、財産、知能、名声。
こちらが価値の中心だと思っているものが、
外から見れば「それは一時的な機能にすぎない」と
片づけられることもあるのかもしれない。
では、何なら通用するのだろうか。
その一つとして、
誰かと長く関係を築き、
その関係を互いに大切だと思い続けられることは、
かなり普遍に近い価値として見なされる可能性がある。
愛、と呼んでもよいのかもしれない。
もっとも――
その「愛」という概念が、
本当に同じ意味で共有されていればの話だが。
それに、愛だけで十分だとも言い切れない。
関係の継続が執着に変わることもあるし、
優しさが排他性を含むこともある。
価値は一つに見えても、
中身まで同じとは限らないからだ。
そう考えると、
私たちが「価値あるもの」と呼んでいるものの多くは、
かなりローカルな約束事なのかもしれない。
では、もし宇宙に通用する価値があるとしたら、
それは肩書きや所有の量ではなく、
日々のありふれた営みの中に
静かに積み重なっているものなのだろうか。
あなたなら、
何を持つ人間を「価値がある」と呼ぶだろうか。
※左上 → 右上 → 右下 → 左下 の順にお読みください。
「何でもない一日こそが、宇宙のどんな星よりも輝く宝物。」
飾らない日々の営みと、隣にいる大切な人への愛おしさを描いた、静かに心を温めるミディアムバラードです。
タイトル:星さえ知る宝物
歌詞:
[Verse 1]
偉い人
お金持ち
宇宙の果ての
物差しじゃ
何の意味も
持たないと
星の光が
問いかける
[Chorus]
何も無くても
君がいれば
それでいいよと
笑えるか
何でもない
一日が
星さえ知る
宝物
[Verse 2]
小さな命
慈(いつく)しむ
今日も普通に
生きていく
何十年も
寄り添った
君の皺(しわ)さえ
愛おしい
[Chorus]
宇宙の瞳
見つめてる
この営(いとな)みに
価値がある
食べて眠って
生きていく
星さえ知る
宝物
[Outro]
飾らない
いつもの日々が
美しい
星の数より
尊くて
今日も明日も
そばにいる
命の日々が
宝物
命の日々が
宝物